インクライン
2024.10.01 (火)

インクライン2024.10月号を掲載しました。

開始日:2024.10.01 (火)

巻頭言 生々しい現場の話(関与先指導)
TKC近畿京滋会 副会長 寺本 和生

役員大会での坂本孝司全国会会長のご発言

今年の全国役員大会で、坂本孝司全国会会長は、基調講演の中で、最近は巡回監査の現場での、生々しいお客様とのやり取りを話すということが欠けている。りくつ、りくつ、りくつでは伝わらない、とおっしゃり、5月5日の個人経費の付け込みの話をされました。

33年前の坂本会長講演より

33年前、開業してまだ半年、お客様2件の私は、この内容の坂本孝司全国会会長の講演を南近畿会の研修所でお聞きしました。

生々しい現場の話の内容は次のようなものでした。

6月の中頃、5月分の監査を実施するためにお客さんのところへ出向くと、奥さんはケーキなどを出してくれて大歓迎で迎えてくれる。一息ついて、「それでは監査を始めさせていただきます」と言って監査を始める。まず現金監査。伝票をめくるとまもなく、5月5日の伝票、「仕入先どこどこと、すかいらーく5,000円」とある。「ちょっと待てよ、5月5日と言えば祭りの日、浜松では誰も仕事をしていないはずだが・・・ 」と思いレシートの中身を見ると「お子様ランチ2、何々定食2」とある。関与先の家族は子供二人の4人家族、「間違いなく個人経費の付け込みだ」。

さて問題はこれから。「奥さんせっかく機嫌よくケーキまで出してくれたのに・・・指摘したら怒るだろうな・・・場合によれば、ご主人に告げ口されるかもしれない・・・そうしたら顧問契約解約されるかも・・・」頭の中で勝手に想像して結局何も言えずに帰る。開業当初はその連続で、自分はこんな思いをするために税理士になったのではないと何度も泣いた。

でも、ある時から、しっかりと指摘しようと決めた。「奥さん、言いにくいことですけれど・・・このすかいらーく、ご家族で食べに行ったものではありませんか・・・もしそうならこの処理を一度でもすると帳簿全体の信頼性を損ないます。下手をすると青色申告取り消しの処分を受けるかもしれません。そうなったら多額の追徴課税で会社を続けられなくなるかもしれませんよ。」

いろいろな抵抗はあったけれど、一件一件ぶれることなく指摘を続けた。そして数年たって気が付いたら、次のように言われるようになった。

個人経費の付け込みを発見し「奥さんこれダメ・・家族で食べに行ったんでしょ・・否認してください」というと「さすが坂本さん、うっかりしていたわ・・・何時もしっかり監査してくれてありがとう・・・坂本さんに任せているのでうちの会計は安心ね」

実際にやってみるがなかなか・・・

苦労して資格を取ったこともあり、開業当時の私にとって、誇り高い税理士業務を実践することは、なによりも重大事項でした。りくつ優先で考えていた仕事の進め方に大きな光が灯った瞬間でした。

そこで、意気込んで坂本先生のように、すかいらーくなどに代表される個人経費の付け込みの指摘をしはじめました。しかし、何度指摘しても個人経費の付け込みがなくなりません。毎回毎回お互いに不快な思いをしながらの監査が続きました。

「なんで、個人経費の付け込みが減らないのだろう」

何かが足りない・・・

関与先指導に今一歩何かが必要と考えていた時に次のようなことがありました。

レシートの内容はボールペン1本、金額165円。出金伝票は156円ボールペン。

それなのに、その日の帳簿上の現金残高はあっています。

金種表もしっかりと合わせてあります。165円払ったのに、156円払った処理になっている。

実地残高が9円少なかったはずです。

多分、奥さんは家事用の財布から10円を事業用の金庫に入れて1円を事業用の金庫から家事用の財布に入れたと思われます。

9円の実地を無理やり合わせる処理をしたのです。

現金管理を毎日やっていれば、9円の違いは、その場でレシートに戻り気づいたはずなのに、巡回監査日の直前にまとめて会計処理を行うから、このようなことが起こるのです。

たかが9円ですが、たかが9円だからこそ、正論を堂々と言いやすいのです。

「奥さん、9円どこかで合わなかったでしょう。頑張って合わせようとされたことは素晴らしいことですが、この処理は事実をごまかすことです。帳簿の信頼性を損なうものです、絶対にやって はいけません 。」と厳しく叱ったのです。

この叱った関与先でも個人経費の付け込みは発生しましたが、一度きりで二度と発生しませんでした。

現金管理をする中で数円の実地残高の調整(ごまかし)は、どの関与先でも起こります。この機会を見逃さずしっかりと叱ることが出来たら、個人経費の付け込みはぐっと減ります。

断固として叱ることで、ベルトをかけることができる

一方で、スカイラーク程度の付け込みを見逃した先では、夏場には個人利用の扇風機が経費計上されました。一度見逃した負い目があり、指摘がしずらくなっていました。

年末には、数か月に分けて定額の消耗品費が計上されました。合計すれば30万円を超えています。何とか指摘して事なきを得ましたが、この指摘には相当な覚悟と勇気が必要でした。もし指摘していなかったら、期末に数百万の棚卸のごまかし要請に発展していたのではと思うと背筋が凍り付きます。

毎月の巡回監査を実施し、③必要に応じて関与先を断固として叱る。このことにより、①ベルトをかけることができる。②関与先の発展のために祈りをもって全力投球しなければ、④経営者の心の指導はできません。当然、⑥絶対的な安心感を与えることもできないのです。

そのためには、⑤関与先の全部が己だとの実感を持つ必要があるのです。(関与先指導6項目)

佐藤正行会長は、今年の基本方針の中で、飯塚初代会長がおっしゃる関与先指導(基本講座第5版P148からP151)こそが、会計事務所の成功の要諦であると指摘され、「関与先指導による事務所経営と職場の風土づくりに舵を切り、長期的視野の中で経理指導を積み重ね腰を据えて巡回監査体制を構築していきましょう」と発信されています。

自分自身の足元をもう一度謙虚に見直し、まだまだ道半ばのことに真摯に取り組んでいきたいと思います。

会員から会員へ 働き方改革

よく遊び、よく働け! 洛東支部 水野 広土

「ワークライフバランス」はもう古い!?

働き方改革と聞くと、まずこの言葉が浮かぶ方も多いかもしれませんが、最近は「ワークライフインテグレーション」という考え方が広がっています。直訳すると「仕事と生活を統合する」。具体的な意味合いとしては「仕事とプライベートの相乗効果で、より幸福な人生が実現できる」というもので、個人的にはこちらの方がしっくりきます(内閣府の「仕事と生活の調和推進室」で紹介されている以下の図が分かりやすいです)。キーワードは「自助 」ではなく「共助」といったところでしょうか。

休み方を改革する

ワークライフインテグレーションの考え方で思い出すのが、私が以前働いていたリクルートという会社にあった「STEP休暇」という制度です。これは、各従業員が勤続3年ごとに、最大4週間の休暇を取得できるという制度で、休暇を取得する際には「ステップアップ支援金」として30万円が同時に支給されます(給与所得扱い)。ステップアップと言っても、何か学んで来いという縛りがある訳ではなく、基本的には自由に休暇を過ごすことができるので、この機会を使って海外旅行に行く人が多かったです(好きなアーティストの全国ツアーを追いかける人もいました )。

また、最近私が注目している「休み方改革」の一つに、「育休コミュニティ MIRAIS」というサービスがあります。これは、産休・育休を何となく過ごすのではなく、それぞれがテーマをもって、同じ育休中の方々とオンラインでつながって活動する、という有料のサービス。一つひとつの活動事例を見ていると、まさにワークライフインテグレーションを実践している話が多いと感じます。

昭和100年を前に思う事

来年は、昭和に換算すると100年目の年になります。昭和の時代は、「24時間戦エマスカ?」というCMに象徴されるように、とにかく働くことが美徳とされていました。しかし、今は多様性の時代。働き方も、休み方も人それぞれで構わないと思いますが、大切なのは、楽しくストレスなくやれる事だと思いますので、私自身は「よく遊び、よく働け!」という気持ちで、これからもやっていきたいと思います。