インクライン
2024.05.01 (水)

インクライン2024.5月号を掲載しました。

開始日:2024.05.01 (水)

せっかくTKC会員にならはったんやったら、「租税判例に親しむ会」に寄って、「判例グルメ」を堪能してみやはりませんか!(注1)
名誉会長 木村 守

はじめに

TKCでは、2ヶ月一回租税判例研究会を開催しています。東京で全国会の研究会が開催され、それを各地域会の講師が持ち帰って各地域会で研究会が開催されます。

京滋会でも、講師の内容紹介を元にさまざまな議論をします。特別に難しい議論をするわけではありません。

実務家の目から見てどうなんだろうか、訴訟までもつれた原因はなんだったのだろうか、その他どんな問題があるのか、自由に意見を交換する場所になっています。

近時の事例

近時では、財産評価基本通達第1章総則6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」(以下「総則6項」と略す)の適用が認められるか否かの判例がありました。(最高裁令和4年4月19日判決)。

これは、タワーマンションの評価に関して、評価基本通達で評価した金額と鑑定評価額との間で、価格に大きな差があったため、納税者と国との間で争いになったものです。

最高裁は、通達は法源として認めていませんから、明文で「総則6項」の適用を認めたわけではないのでが、世間では、適用を認めたと言われています。

ここで 、少し、税法を離れて考えてみたいと思います。

評価基本通達は国が作成し、それによって評価するのが常識のようになっています。しかし、今回、国は財産の評価について、評価基本通達によらず鑑定評価を採用しました。納税者は評価基本通達に従って計算しました。そして、国は、自分たちの基準である評価基本通達に従った納税者の評価を否認してきました。

納税者からみると、「せっかく評価基本通達に従ってやったのになんで鑑定評価になるの」と疑問が湧いて来るでしょう。

国は、評価基本通達でやるように指示しながら、都合が悪いと鑑定評価に逃げるという現象が起きて い ます 。

税法の従来の理論をいったん横に置いて、今起きている現実から、判例を読むといろいろな課題や気づきがあると思います。(注2)

租税判例は読みづらい、それとも面白い?

「判例の研究は,今日、ますます重要となっている。 実務家にとっては、事案が不服審判所や裁判所に係属した場合はもちろんのこと、国税局や税務署の担当官と交渉する場合にも、判例の動向を事前に把握し、分析しておくことが必要不可欠といえよう。 その意味で、税理士についていえば、「判例の分かる税理士は優秀な税理士」という時代がすでに到来しつつあるように思われる 。」( 金子宏「税研208号租税基本判例70令和1年11月20日」「はしがき 」より )

租税判例は、読みづらいし、面白くもありません。租税法を評して、ある高名な弁護士が、1に難解、2に難解、3、4がなくて5に難解と、租税法を揶揄していました。それと同じように租税法の判例は読みづらいと思います。租税法の判例は事実関係が非常に細かく書かれているので読むのに時間がかかりますし、租税法が難解だけ、判例の分析も難解です。しかし、読み慣れてくるうちにだんだん読み方がわかってくると思います。一人で読むよりも多くの仲間と読むのが、租税判例に親しむ近道だと思います。「租税判例に親しむ会」はそういう会です。

もう一つ大事なことは、租税判例は法規と同じように法源して取り扱われると言うことで す 。ここは、判例と通達が決定的に違うところです。通達は法源にはなり得ません。判例は法源として取り扱われますので、難解な法規の解釈には、判例研究が欠かせません。

「税理士よ、法律家たれ。」

TKC2代目の会長であった故松沢智教授は、「税理士の職務と責任」の「はしがき」に次のように述べています。

「(略)そもそも制度を手直しするのは哲学がなければならない。哲学が無ければ制度をいじることによって、かえって制度そのものを崩壊させてしまう結果ともなろう。その哲学とは一体何か。制度がそれ自体法によって与えられるものである限り、法の精神を離れては制度論は空虚である。

法の哲学は法の根底にある理念に導かれるものでなければならない。税理士制度が租税法を実現 するために密接に結びつくものである以上は、租税法の根底にある「租税正義」がこれに当たろう。租税法という法律を実践する職業である限り、「租税正義」という旗標をもつ「法律家」の集団が税理士制度なのではなかろうか。そのためにも、税理士は権力におもねず、また委嘱者とも一線を画し、「法律家」の良識により法律に基づく適正な納税義務を実施 し 、もって 社 会 の 税 に 関 す るオピ ニオンリーダーとしての人間の集団が税理士制度であると自覚することが必要である。「税理士よ、法律家たれ。」 この一言が、本書のすべてを物語ろう(略)。」(松沢智「税理士の職務と責任」第3版 中央経済社 平成8年9月20日「新版のはしがき」より)

「税理士よ、法律家たれ。」という言葉を実践するとするならば、租税判例に親しむ事がどうしても必要だと思われます。

終わりに

「租税判例に親しむ会」は、血縁的共同体としてのTKCの租税法に対する一つ実践の場です。お互いに学び合う場所です。指導して頂いている先生方は一流の学者です。資料の「TKC租税判例研究会教材」の中身は、必要な参考判例、条文を網羅しています。

近時の例として「総則6項」をあげましたが、令和6年2月の研究会では、「資本増強のための特別目的会社(SPC)の設立とタックスヘイブン対策税制」と「宗教法人の管理人室は固定資産税非課税の境内建物に当たるとされた事例」が取り上げられています。地方税も含め、幅広く研究対象としています。

表題を見るととても難しくて、近寄りがたい感じがするとおもいます。内容を聞けばそんなことだったのかという感じになると思います。メニューの表示が堅すぎるのかもしれません。

そのほかにも、会員の直面している難問も共有して解決をめざしています。気軽に参加してください。

(注1)正式名称は「TKC租税判例研究会」ですが、もっとソフトな感じが良いということで「租税判例に親しむ会」になりました。発案者の事務局の皆さんに感謝します。

(注2)通達の意義や判例の法源ついては、金子宏 「租税法」弘文堂2021年24版107頁以下参照

  • このケースでは、法の執行で納税者と国との関係で平等の取扱がなされていないことになります。
  • 国は、評価基本通達による評価か、あるいは鑑定評価よるかを選ぶ選択権がありますが、納税者には選択権ありません。
    (納税者に選択権をみとめれば、評価基本通達は必要でなくなります。)
  • そして、この問題は、収束しているわけではありません。最近の雑誌で、「総則6項」の適用を認めなかった判決が紹介されています。東京地裁2024年1月18日の判決です。国は控訴しているそうですが、結果が注目されます。
    (中島孝一「類似20業種比準価額適用におけるそ総則6項の適否の判決について」月刊税務QA 2024年4月号 38頁以下)

会員から会員へ 働き方改革

従業員の働き方改革は経営者の働き方改革から?! 洛西支部 西津 陵史

「え っ?!ほ ん と に?」

持病の痛風の治療のために定期的に血液検査をしているのですが、とうとう血糖値が高いという結果まで出てしまいました。成人病まっしぐら、洛西支部西津です。

従業員の働き方改革

常々従業員には充実したプライベートを送ってほしいと伝 えて います 。そのためには時間とお金が必要。なので、
①残業なしで年収1,000万円をみんなで目指す
②会社の飲み会は夜や休日ではなくデイタイムに
③経営者としての感覚を身に着けるためにも副業OK
④業務のための勉強などは業務時間中に
⑤家の用事のための遅刻早退OK
としています。そのために、法務・会計・税務だけでなくグループウェアやプログラミングも含めたデジタルや生成AIなど最新の技術に対する情報にアンテナを張るようにしています。従業員もいかに仕事の生産性を上げるかの意識が高くなりました。

理想と現実

とはいえ、すべてが完璧にできているかといえ ば 、はっきり言ってまったくの 道半ばですし、やりたいことは他にもたくさんあります。国が法案まで整備し我々も顧客に伝えているのに自分たちが中途半端であることは否めません。

「私、転職します!」

独立当初からがむしゃらにやってきましたが、実務、経営、営業や飲み会と寝る間を惜しんで仕事をした結果、身体もボロボロ、やりたいことは道半ば。会計業界のDXはまだまだ進んでいくというのに、このままではすべてが中途半端になってしまうという危機感が!

そこで2024年の年初挨拶にて「経営者に転職します!」と宣言しました。まずは自分自身が働き方改革を実践して経営者に専念できる環境と体調を整え、社内の働き方改革の旗振り役になれるようにしなければならないと思ったからです。

ゆい会計事務所の働き方改革という冒険は今始まったばかりです。とりあえず、ダーマ神殿に転職しにいきます。